絵本・旅行コラム(パパママコーナー)

遥かなるケンブリッジ

久しぶりにイギリスに行ってきました。エディンバラからケンブリッジまでドライブするということだけ決めて、あとは現地で情報を収集して、出来るだけ楽し い時を過ごそうという、かなり大胆な、というよりいい加減な考え方で出発しました。さて、エディンバラのインフォメーション・センターで当面の目的地であ るヨークまでの道をたずねたところ、行き方を細々と説明した7項にもわたるプリントをくれて丁寧にいろいろと教えてくれました。でも、地図はくれませんで した。海沿いに南下すると美しい風景を楽しめるというので、その言葉に従って、深い青が広がる北海を右に見て緑のなだらかな丘陵地帯をひたすら南へと向か いました。イギリスには高い山脈がないため、目の前には、青い空が白い雲を浮かべてどこまでもつづいています。どうしてターナーの絵にはあんなに空と雲が 描かれているのかが納得できたような気になりました。

ところが、どこかの交差点で曲り方を間違えたらしく、海がどんどん遠くなってしまいました。結局、その夜はとても小さな村にある雑貨屋のおじさんが案内し てくれた新しいモーテルに泊まることになってしまいました。こんなことをしていて、ケンブリッジにたどりつけるのでしょうか。風景の穏やかな美しさを味わ いつつも、どうなるのか、と少し不安を感じる頃、ようやく目的地近くまで到達しました。

実をいうと、今度の旅行ではうまくいったら、ケンブリッジの町を流れているケム川の少し上流にある古い水車小屋を訪ねることができたらと、密かに願ってい たのです。というのは、先ごろ亡くなったフィリッパ・ピアスの最初の作品である「ハヤ号セイ川をいく」の舞台になっているのが、ケンブリッジの北にあるケ ム川のほとりにある村だと聞いていたからです。ふたりの男の子がカヌーに乗って、川を上り下りして古い屋敷に伝わるという宝を探すというこの話は、ストー リーの展開だけでなく、男の子たちと彼らの家族や村の人々の一人ひとりにいたるまでの人物描写が、とても魅力的なのですが、とくに、背景となっているイギ リスの田園風景は、やわらかな陽光を浴びて風にかさかさと鳴る木の葉まで感じられるほどで、川の水の流れとともに、そこへ行って自分の目と耳、肌で体験で きたらいいなあと思っていたというわけなのです。

残念ながら、わたしの密かな願いはかないませんでしたが、ケンブリッジでよく知られている平底舟に乗って、したたるような緑の中を、滑らかに移動するとい う経験をして、水の上をちいさな船を漕いでいくのはどんな気分がするものかを、ちょっぴり味わって満足することにしました。

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